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「ああ。これはね、バーベナという名だよ。日本では"美女桜"とも呼ばれている花でね。実に君にピッタリだ」
……本当、隙あれば口説くんだな。
窓際に花瓶を戻した俺は「名残惜しいのは分かりますが、そこまでです」と終了を告げる。
「栃内さん。ご迷惑でなければ、明日もお邪魔してもいいですか?」
「是非! 何のおもてなしも出来ませんが、お二人の負担にならないのなら来て下さると嬉しいです」
「ここに来ればキミと話せる。これ以上の"おもてなし"はないさ」
椅子から立ち上がった充希が、軽くウインクを飛ばす。
「それじゃあ、さっきのこと、考えておいてくれ」
「……はい、ありがとうございます」
何のことだ? 疑問を口にする前に、充希は片手で俺の背を押して、
「日本では願い事を叶えるまじないに、"願掛け"というものがあるのだろう? それが叶うまで、一番好きなものを断つ。だから彼女を誘ったんだ。ここを出たら、一緒に"カツ丼"を食べに行かないかとね。なあ?」
視線を受けた栃内が、笑みを崩さずに「はい」と首肯する。
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