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「おおっと、安心してくれ。もちろん、巧人も一緒にだ。僕が大切な"相方"を、置いて行く筈がないだろう?」
「……それは、お気遣いありがとうございます」
口だけの感謝に充希は満足げに頷き、
「さて、明日の逢瀬も約束されたことだし、いい加減帰るとしよう」
西洋の紳士のごとく、優雅に流れた黒い腕。
「では、美しい"バーベナ"。待ち遠しい明日に、また会おう」
「……それで昨日、昼も夜も断ってたんですね」
病院を出てからの道中、納得いったと呟く俺を「うん?」と充希が見上げてくる。
「カツ丼ですよ。あんなに食べたそうにしていたのに、"今日はいい"なんて言うから変だなとは思ってたんです」
「ああ、そのことか」
「言ってくれれば良かったじゃないですか」
「いやあ、すまん」まったく悪びれずに充希が笑む。
「いや、いつにしようかと悩んでいたのは本当だよ。僕にとって、特別に楽しみにしていた料理だからね。"願掛け"の為に断とうと決めたのは、つい先程さ。彼女を誘うこともできたし、我ながらいい提案だったな」
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