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「ヤダなにこの野暮天」
先制パンチを喰らわせてきたのは、超人気のサロンで時折テレビやネットで紹介されている店の少し個性的な店長だ。
「今はね、でもきっとやり甲斐があると思うよ」
竜基さんは楽しそうに答えると、今度は私に向かって
「アンソルスレールのお客さまなんだ」
「そうなんですね」
店の造り的に他の客がよくわからないから知らなかったが、結構すごい客が来てるのかもしれない。
場違い感が凄くて気配を消そうとしていると店長が目の前に立っていた。
「ウサギちゃん始めるわよ。ウサギって言ってもジャージーウーリーね」
そう言い放つとカットを始めた。
「何この前髪、コレがいいわけ?全然似合ってないから」
「ちょっと重いわよ」
文句を言いながらカットを進めて行き、最後に両サイドの髪を指で整えると店長は満足そうに頷いた。
「もう、あなたは素材がいいんだから、それをぶち壊しちゃダメよ」
そう言われて目の前の鏡を見るとそこには知らない自分が映っていた。
「言ったろ?やり甲斐があるって」
店長は腕を組んで鏡越しに私を見ると「あなたカットモデルにならない?」と言い出した。
流石に目が泳いでいると鏡越しに竜基さんと目が合った。
「亜由美次第だよ」
こんな凄い人のカットモデルなんて・・・でも、変わるって決めたんだし、やってみたい。
決意が表情に出ていたのか、竜基さんが微笑んだように見えた。
「やります」とハッキリと伝えると二人が頷いた。
連絡先を交換していると竜基さんは
「さて、そろそろ行くぞ」と、言って私の肩を抱いて店を後にした。
あまりにもさりげない所作にドキドキした。
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