<プロポーズ>

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お父さんはすっかり酔い潰れて眠ってしまって竜基さんはお風呂に入っている。 お母さんと二人で片付けをしている。 「いい人じゃない、不安がないとは言えないけど二十歳になった娘に交際のことをうんぬんいう気持ちもないし、あんたが学生であることをきちんと理解してくれてわざわざここまで挨拶に来てくれたんだから応援する。しかもすごいイケメンだしね」 「うん」 「何よりあんたの雰囲気がすごく明るくなったのがきっと長友さんのおかげなんでしょ」 「中学の時に軽いイジメにあっていたの」 「え?」 お母さんは驚いた表情で私を見つめる。 家ではそんな雰囲気を出さないようにしていたから気づかれていなかった、私も隠していたし。 「坂口マートの息子のせいで」 なにか腑に落ちることがあったのか 「だから、わざわざ遠くのスーパーにいってたのね、同級生だから嫌だったくらいにしか思ってなかった。気づいてあげられなくてごめんね」 「うん、でももう大丈夫。竜基さんのおかげで克服できたし、さっき坂口君に会って話をしたから」 「一つだけ覚えておいて。今、決めた事が全てじゃない。この先、生活をしていくうちに起こる変化にその都度変えていっていいんだからね」 「お風呂ありがとうございました」 お風呂から上がった竜基さんがリビングに入ってきて話は終わったが、きっとお母さんはこの先の選択肢を広げておいてくれている。 竜基さんもそう言ってくれた。 私は私のやりたいことを自信を持ってやっていけばいい。 「布団はあんたの部屋に敷いておいたから」 いつの間に!と思ったが、ありがとうと伝えて竜基さんを部屋に案内してから自分も風呂に入った。 部屋に戻ると、竜基さんは布団の上に座り膝の上に置いたモバイルパソコンを操作していた。 「お仕事?」 「もう終わりだよ」 そう言って、パソコンを私の机の上に置いてから手を広げておいでのサインを送ってきた。 私は吸い込まれるように胸に抱きつくと腕の中にすっぽりと収まった。 「坂口くんのことはもう整理がついた?」 「ありがとう、ちゃんと聞かずにいたらずっとずっと逃げて、フラッシュバックのようにあの日の言葉が蘇って動けなくなっていた。だけど、話をして謝罪を受けて許す気にはなれないけど、理由を聞いてな〜んだって思った」 竜基さんの肩に頭をもたれる。 竜基さんの体の厚みと匂いが安定剤のようにふわふわとした気持ちになる。 「それにね、さっき結婚を前提としてって言ってくれたが嬉しかった」 「先にご両親に言ってしまってごめん。ちょっと待ってて」 そういうと、壁に掛けたスーツのポケットからジュエリーケースを取り出した。 え!なに!! 「結婚してほしい。もちろん、亜由美は学生でこれから就職をすることになる。それは自分がやりたい事を優先してくれればいい。そのために俺はいくらでも亜由美を応援するし補佐もしよう」 ジュエリーケースを開けると小さなダイヤが5つ並んだv字のリングと縦爪の大きな一粒ダイヤのリングが重ねて収まっている。 なんだか凄くて声が出ないでいると 「指にはめていい?」 コクコクと頷くと最初にV字のややシンプルなプラチナリングを嵌めて「これなら普段からつけられるでしょ、虫除け用」と言いながら次に縦爪リングをはめる。 「ありがとう」 キラキラとかがやくリングを眺めていると竜基さんは指輪のはめられた手にキスをした。 カーテンの隙間から光が漏れてベッドに細い筋が出来ている。 竜基さんの腕の中で目が覚めて左手の薬指をみるとキラキラと輝いている、 縦爪のリングはジュエリーケースに戻してV字リングは薬指にはまったままだ。 ニヤニヤしちゃう。 「おはよう」 頭上から声がかかり見上げると竜基さんが楽しそうに微笑んでいる。 「おはよう、凄く狭いよね」 竜基さん用にベッドの下に布団を敷いてあったが、高校まで使っていたシングルベッドに二人で眠った。もちろんただ抱き合って眠っただけだ。 「より距離が縮まった感じがしていいと思うよ」 ふふっ 二人で小さく笑い合った。 朝食を食べた後、お父さんに秋田駅まで送ってもらい、新幹線の時間までお蕎麦を食べたり、日本酒のお店で地酒をチェックしたりした。 指輪って凄い。 仮の恋人から本当の恋人になって、そして婚約者になった。 私は竜基さんの特別なんだと感じることができる。 その証としての指輪。 朝、お母さんにだけは見せたらびっくりしていたが「よかったね」と言ってくれた。 新幹線に乗り込むとあっという間に街が過ぎていく。 今回帰省してよかった。 竜基さんがやりたいことをしていいと言ってくれている、それならば 「私もお酒に関する仕事がしたい」 「そうか、じゃああと2年間しっかり勉強して大学を卒業しないとな」 今まで、何かを目標にしていたわけじゃなかったけど、今は竜基さんがやっている仕事をもっと知りたいと思う。
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