10月1日

1/1
前へ
/31ページ
次へ

10月1日

どうか知らないで。 暴かないで。 うそ。 知っていて。その上で、好きだと言って。 痺れる頭の中、我儘が炸裂する。 「外すよ」 つるを摘まんだ指先が、微かに震えた。 気になったのは、一瞬。優しい手つきで、スムーズに視界を奪われた。 端正な顔つきが、ぼやけて見える。わかるのは、肌色と黒色くらいだ。 なのに、吐息がこんなに熱い。 「なんか、ヘンな感じだね」 「よく言われる」 幼く見える、とか。眼鏡似合ってたんだね、とか。 だとしても一言、可愛いねくらい寄越しなさいよ。 鼻で息を吐いたのは、あまりに乙女な己の思考回路に対してだ。 「そう言うなら返してよ」 「え?ヤだけど」 ヤ、だって。そんな、子どもみたいな。 呆れる間もなく、出口を塞がれた。ほんの一瞬、コンマ数秒。 ちゅ、とやけにリアルな音を立てて、離れる。 「だって、ジャマでしょ?」 カシャン、と足下で音がした。 「ちょっと」 割らないでよ、お気に入りなんだから。 小言は全部、呑み込まれてしまった。 後で言ってやらなきゃ、絶対。 熱に侵される理性の片隅に、しっかりと書き止めた。おそらく、ミミズみたいな字で。 メガネの日
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加