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10月1日
どうか知らないで。
暴かないで。
うそ。
知っていて。その上で、好きだと言って。
痺れる頭の中、我儘が炸裂する。
「外すよ」
つるを摘まんだ指先が、微かに震えた。
気になったのは、一瞬。優しい手つきで、スムーズに視界を奪われた。
端正な顔つきが、ぼやけて見える。わかるのは、肌色と黒色くらいだ。
なのに、吐息がこんなに熱い。
「なんか、ヘンな感じだね」
「よく言われる」
幼く見える、とか。眼鏡似合ってたんだね、とか。
だとしても一言、可愛いねくらい寄越しなさいよ。
鼻で息を吐いたのは、あまりに乙女な己の思考回路に対してだ。
「そう言うなら返してよ」
「え?ヤだけど」
ヤ、だって。そんな、子どもみたいな。
呆れる間もなく、出口を塞がれた。ほんの一瞬、コンマ数秒。
ちゅ、とやけにリアルな音を立てて、離れる。
「だって、ジャマでしょ?」
カシャン、と足下で音がした。
「ちょっと」
割らないでよ、お気に入りなんだから。
小言は全部、呑み込まれてしまった。
後で言ってやらなきゃ、絶対。
熱に侵される理性の片隅に、しっかりと書き止めた。おそらく、ミミズみたいな字で。
メガネの日
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