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スマホをテーブルに落として、部屋を出る。
外では甘い音が響くのに、廊下は物静かな【百合の間】を素通りして、千冬と伊澄が居る【桜の間】に入る。
ガチャッ
ドゴッ、ゴンッ
扉を開けば、旅館には似つかわしくない音が響いていて、畳を蹴る音と潜もった声も聞こえた。
入り口から襖を開く。
布団でぐるぐる巻きにされて、床に転がる二人の男。その傍らで椅子に座って煙草を吸う千冬と、男の顔横にしゃがんだ伊澄がほぼ同時に俺を見る。
ふわりと笑ったら、反して二人は怪訝な顔をした。
「遅い」
「どう?調子は」
「色々やったけど全然駄目。すっきりしない」
「スッキリって、セックスじゃないんだから」
べしっと転がった男の頬を叩いた伊澄の正面に俺もしゃがむ。「ひゅっ」と、なんとも言えない汚ならしい声が男から聞こえて、腹立たしくて鼻を摘まんだ。
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