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千冬とそこまで接点が無いと言っていた花音は、
千冬のいきなりの登場に驚いていて。
奴は目の前まで来ると、テーブルの向かいに腰を下ろし、頬杖をついて私を覗いた。
はらりと右袖がテーブルに落ちて、程好く筋肉質な腕が覗く。骨格が浮き出た手首に脱力した二重瞼が、正面から私を見てゆるりと口角を上げた。
「浮気者」
浮気者って、
「…え。ハルちゃん千冬って付き合ってるの?」
「ませんよ。勘違いですよ花音」
何を言ってくれてるんだ、と千冬を見る。今のこの状況(泣いてる花音を宥める私)が見えてないのか。そう念を送るのに、正面の千冬は気にも止めてない顔をして。
「いずれそうなる」
ちょっ、
「なりませんよ」
「なる」
「なりませんって」
「なってよ」
「……」
「俺のになってよ、ハルちゃん」
寝起きだからかふわふわした口調で、急に柔らかく言葉を変えて。ずるっと肘をテーブルに滑らせた千冬は、そこに崩れる。
二重瞼の奥の瞳が、私に向く。
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