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「これくらい直ぐ乾くよ」
髪の事だと思ってる花音。…でも千冬が指してるのが"髪"じゃないと分かるから、恥じらいを圧し殺して睨めば笑われる。
声を出す訳じゃなく静かに、頬を緩めるムカつく顔。
その間も器用に、ショーツの一番布が少ない場所を指が掴む。慌てて浴衣を押さえる振りをして、潜り込んだ千冬の足を掴んだ。
「ッッー…」
素足が手に触れて、
見掛けに寄らず滑らかな肌が、ショーツから私の手に寝た。力を加える訳じゃなく、そこで動きを止める。
両腕をテーブルに寝かせ突っ伏した千冬が、更に低い位置から私を見上げて。口元を埋めた顔は今度は笑みを作らず、何処か真剣さを含む。
……
朝陽に照らされて、肌色がオレンジに溶けた。
さらりと流れた黒髪の下から覗く二重瞼が、意思を強めて私を見る。その瞳がすっと横に逃げて。
「惑わされんなよ」
「……」
「俺だけだろマジで‥」
‥え?
微かな声が、交差した腕の中に消えた。
「えっ?千冬、なにっ?」
テレビの音で聞こえたかった花音が投げ掛けた声に、「別に」と。「少し寝る」返ってきた言葉を最後に、完全に突っ伏した頭。
顔が遮断されても、残った言葉に鼓動が早くなって。
鏡に映った自分はやっぱり、
馬鹿みたいに頬を赤く染めていた。
―――
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