変わらないもの/変えたいもの

3/21
前へ
/446ページ
次へ
「分かった。そうする」 「ちょっと、ハルヒー」 言った私に、伊澄は満足気に笑って。 「じゃあまた明日」 「うん、また明日」 伊澄を乗せた車が走って行き、見えなくなる。 そこからは愁と並んで、閑散とした町の中をアパートがある方角に足を進めた。 「一人で帰れますよ」 「駄目」 「……」 全く聞き入れてくれない。 五人の中で一番、アパートと近いのが愁の家っていっても、歩けば距離はある。荷物も多いしこっちルートだと遠回りになるのに…。 歩いていたら、横を車が走り抜ける。今朝まで雨が降っていたらしく路面が濡れていて、水が跳ねないように道路から距離をとる愁。 その手が腕に触れて、気付いたら手を握られた。 ビックリして顔を上げても、愁は涼しい顔で前を見ている。 「昔さ、キャンプに行った時。一人で動けなくなった俺の手をハルヒが握ってくれたじゃん」 「良く覚えてますね」 「覚えてるよ。声も顔も全然普通なのに、繋いで初めてハルヒの身体が震えてるのが分かったから」 「……」 「なのにあの頃は何も出来なかった。ハルヒは女の子で、俺は男なのに。ホント自分が不甲斐ないよ」 それを言ったら、私も一緒。 愁を引っ張る一方で怖くて、暗く続く山道が涙で霞んで見えなかった。恐怖に押し潰されそうで、心の何処かで聖を頼りにしてた。 聖が走って来てくれなかったら、 私も途中で踞って動けなかったと思う。
/446ページ

最初のコメントを投稿しよう!

410人が本棚に入れています
本棚に追加