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「分かった。そうする」
「ちょっと、ハルヒー」
言った私に、伊澄は満足気に笑って。
「じゃあまた明日」
「うん、また明日」
伊澄を乗せた車が走って行き、見えなくなる。
そこからは愁と並んで、閑散とした町の中をアパートがある方角に足を進めた。
「一人で帰れますよ」
「駄目」
「……」
全く聞き入れてくれない。
五人の中で一番、アパートと近いのが愁の家っていっても、歩けば距離はある。荷物も多いしこっちルートだと遠回りになるのに…。
歩いていたら、横を車が走り抜ける。今朝まで雨が降っていたらしく路面が濡れていて、水が跳ねないように道路から距離をとる愁。
その手が腕に触れて、気付いたら手を握られた。
ビックリして顔を上げても、愁は涼しい顔で前を見ている。
「昔さ、キャンプに行った時。一人で動けなくなった俺の手をハルヒが握ってくれたじゃん」
「良く覚えてますね」
「覚えてるよ。声も顔も全然普通なのに、繋いで初めてハルヒの身体が震えてるのが分かったから」
「……」
「なのにあの頃は何も出来なかった。ハルヒは女の子で、俺は男なのに。ホント自分が不甲斐ないよ」
それを言ったら、私も一緒。
愁を引っ張る一方で怖くて、暗く続く山道が涙で霞んで見えなかった。恐怖に押し潰されそうで、心の何処かで聖を頼りにしてた。
聖が走って来てくれなかったら、
私も途中で踞って動けなかったと思う。
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