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完全に手を離すタイミングを失ってしまって、前に翳してふるふると振ってみても、「なに?」と離すどころか繋いだ力を強められる。
「……」
もう直ぐそこだし、そのままにした。
部屋に辿り着き、
そこで漸くどちらからともなく手が離れて。
鞄から鍵を取り出し、鍵穴に差せばカチャリと回る。帰ってきたなぁって安堵感と、帰ってきちゃったなぁって溢れる虚無感。
非現実的な時間は、色々あったけど楽しかった。
「ハルヒは今も、聖を思い出す?」
唐突に投げ掛けられた名前に、
ドアを開いて愁に振り返る。
カーテンを閉め切った部屋の中は日が陰り冷たくて、反して後ろに立つ愁は、蜂蜜色の髪に陽射しを含んで暖かかった。
「たまに思い出しますね。(その顔は)愁もでしょ?」
「そうだね。俺はここ最近ずっと考えてるかな」
「聖の事を?」
「うん」
ふっと、つい笑ってしまう。「すいません…」と笑みを消した所でもう遅い。取り繕った私を愁は正面から見下ろして、雰囲気は同じなのに、やっぱり昔とは全然違う。
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