読めない奴

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「腹減ったんだけど飯食って良い?」 「……どーぞ」 「どーも」 パチンと割り箸が割れる音。 大きな背中が弁当をつついて、ベッドヘッドに近い場所で両膝を起こして座る私は、千冬とテレビを交互に眺めた。 立てた膝に腕を乗せ、鼻先から下を埋めてジッ‥と、テレビというより千冬を見る。 …物を食べてる時は静かだ。 そして一番、年相応だと思える横顔になる。 それでも見掛けに反して食べ方は綺麗で、音を立てたりしない。箸の持ち方も綺麗で、良く見たら千冬ですら所作はちゃんとしている。 箸の先がツンとプチトマトを押して、端に避けたのが見えた。 「千冬って苦手なものあるんですか?」 「牛乳と、これ」 でしょうね。 牛乳も苦手なのか‥、意外と可愛いな。 箸先が嫌そうにトマトをつつくから、つい笑ってしまう。 百戦錬磨でなんでもこなしそうな男も、愛らしいプチトマトと牛乳には弱いのか。
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