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「はーるちん、いーずみー」
空から、ピンポン玉より軽い声が降ってきた。伊澄に下瞼を掻かれたまま、視線を上へと上げる。
向かい合う伊澄も、同じように左上を見上げて。
本校舎二階、渡り廊下の柵に両腕を引っ掛け、ひらひらと手を振る蓮を見付けた。柵に対して長い足を遊ばせながら、甘ったるい表情でそこに居る。
「なぁにしてんの?そんな所で」
「別に」
「ふーん?」
と思うと、今度は雰囲気を一変させる。
目尻の上がった二重瞼を細めて、崩れるように頬杖を付く。口元に弧を描き真っ直ぐ私達を見下ろすその目が、何を考えてるか、深読みする事が出来ない。
「皆んな待ってるから早くおいでよ、ハルちん」
待ってるって、
「もうすぐホームルーム始まりますけど、」
「今日ハルちんのクラス、一限自習だって」
…だから?
そう思ったのも束の間、蓮が足元から拾って掲げたそれは、私が教室に置いてきた筈の鞄で。
「石みたいに重いんだけどー」
「どうして持ってるんですか」
「ひみつー」
と。
超どうでも良い会話に、廊下側の窓から覗く生徒の目が向けられる。こんな中身の無い会話に、興味津々に耳を傾けられても。
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