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「ハルヒは直ぐに無理するからなぁ」
首を傾げた愁の顔が角度を付けた位置から私を覗き、取り繕っていた筈なのに唇に力が入った。
…こんな筈じゃ無かったのに、油断してた。
目の前に愁が居る。
今日は一人だと思っていたから、置いてきぼりの気持ちがついて来ない。
すっと落ちた瞳が僅かな表情の変化を確認して、口角が少しだけ上がった代わりに、瞼は高さを落とす。
「腹空かない?」
「…え?」
「まだ何も食べてないじゃん。俺は減ったし、ハルヒも空いてんでしょ」
「愁は帰らないんですか?」
っていうか、どうして戻ってきたんだろう。
他の三人が居ない辺り戻ってきたのは愁だけで。
愁はここが私の部屋だと気にする様子も無く、上の物干し竿に掛けていたシーツを手繰って手に取り、ベランダの扉を大きく開く。
「入って。冷えるし風邪引く」
「あの、」
「帰らねえよ」
「……」
「ハルヒを一人にして帰るわけ無いじゃん」
"今日は"と言葉を続けて、愁の手が肩を引く。
力に委ねて部屋の中に戻った私の背後で扉が閉まり、静かな空間に愁が広げたシーツが、ばさりと立てた音が響いた。
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