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シーツを拾おうと伸ばした手を掴まれて、「え!?」そのまま座椅子へと誘導された体は、辿り着いた途端肩を上から押される。
軽く押してるつもりかもしれないけど私からしたら結構重くて、「ちょっ、」簡単に膝が折れて体がそこに沈んだ。
愁を見上げる。
当の本人は、いつもと何も変わらない。
「座ってて」
「いや…」
「冷蔵庫勝手に漁って良い?」
は?
「あるもので何か作る。こう見えて俺結構自炊するから」
「…嘘ですよね?」
「嘘に聞こえる?意外と本当の話」
服の袖を捲りキッチンに向かって行った背が半分だけ振り返り、得意気に笑う。
ワックスで緩く後ろに流された蜂蜜色の髪が、愁の仕草と表情を無駄に引き立たせていた。
高い背丈は天井に近くて、オレンジ色の蛍光灯の明かりに照らされる。白地のシャツといい髪色といい、幻想的にライトアップされているように見える。
…ここは私の部屋だ。
いつもとなんら変わらないキッチンに、
愁が立ってるだけ。
学校ではあれだけ豪華な部屋で過ごしてるし、千冬といい愁といい、物が空っぽの質素なこの部屋には合わないと思うんだけど、どうしてかそれすらも絵になっている。
…そうだよね。
ベッドで文句垂れ垂れに態度のデカイアシカをしてたって絵になるんだから。
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