波乱の一日目

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着替えてきなよ、と言われて、お言葉に甘えて脱衣所で制服から部屋着に着替える。 愁の制服(一セット10万円以上)が汚れたら困ると思って、昨日貸した服と同じものを脱衣所の物干しから外し持って行った。 「どうも」 渡せば料理の手を止めて、直ぐに脱衣所に入り着替える。あの日千冬に買いに走らされた服が、バケツリレー方式でこんな形で役に立つとは‥。 アシカスタイルの黒ベースの服でも、活発に動いて料理をする背中を眺めればアシカ感がない。 手伝おうとしても笑顔で突き返されるし、布団にカバーを付けようとしても笑顔で怒られるし、立ち上がろうとすれば「何してんの?」「……」と。 徐々に低くなる声。 さすがに怖くなって、 教科書とノートを取り出した。 ガサッと音を立てた私に、包丁片手に満面のデススマイルで振り返った愁も、「勉強なら安静だね」と許しを頂いた。許可が出たからノートにペンを走らせる。 「……」 …いや、ちょっと待って。 あの人、普通に怖くない? 空気は和んでるのに、何この居心地の悪さ。 少し動いただけで直ぐに反応をして振り返るから、気軽に音を立てられない。ジュージューとフライパンで何かを炒める音が、やけに恐ろしく響く。
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