01.このままでは地獄が、まるで地獄のようだ

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01.このままでは地獄が、まるで地獄のようだ

地面が落ちてきた――。 と思ったら、人が落ちてきた。車もビルも落ちてきた。 ここは人間が暮らす地上の遙か真下。 地獄と呼ばれている世界だ。だって、地獄と呼ばれているから。 地獄始まって以来の珍事に、飼い犬のケルベロスは逃げて行った。 だからリードはハーネスにしてくれと進言したのに。 首輪をするにしても、予算をケチって一首分にするから逃げられる訳ですよ。 人の世界では、監獄から脱走することを脱獄と言うらしい。 ではここでも、地獄から脱走することは脱獄で合っているのかな。 僕は、地獄の文官・獄泉(ごくいずみ)構文(のかまふみ)。 えーと、獄泉の獄に獄泉の泉で獄泉と読みます。 地獄が忙しすぎて、小野篁(おののたかむら)先輩に続き、閻魔様の補佐官になった男。 僕が選ばれたのは、選ばれし者だったからでしょう。 「篁先輩、地上が落ちてきました」 「は? まだシン地獄のプレオープンにも漕ぎ着けていないぞ。獄泉なんとかしろ」 「取り敢えず、地獄送りにしておきましょうか。あ、もう来てるのか」 「あ、頭が痛い……」 篁先輩は頭を抱えている。 頭を抱えているということは、頭を抱えたくなるようなことが起こった訳ですよ。 僕は無限に落ちてくる地面や人や建物などを見ながら、思ったんです。 これは地獄絵図だ。 このままでは地獄が、まるで地獄のようだ――と。
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