あきす。

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 ワンルームで、風呂、トイレ、キッチンがついているだけの部屋だ。古いアパートだが、ロフトがついていて上にはちょっと物を置いたりごろ寝することができるくらいのスペースがある。立ち上がれるほどの高さはないのだが、横になって漫画を読むのは丁度良いのでちょこちょこ活用していた。――まあ、最近はだいぶ物置化が進んでいて、横に慣れるスペースがかろうじて残っているだけなのだが。  一応梯子を登ってロフトを確認するものの、特に物の配置が変わっているような気がしない。  風呂とトイレも覗いてみたが、誰かが隠れているなんてことはなかった。そこまで確認して、ようやく私はほっと息をつく。 「なんだ、やっぱり空き巣なんかないじゃん」  窓の鍵も開いている様子はない。もしも誰かがこの部屋に侵入したのだとしたら、行きも帰りも玄関からしかあり得ないが、おかしな足跡が残っているなんてこともなかった。勿論、見知らぬ靴が置いてあったなんてこともなし。  いや、ひょっとしたら。空き巣は本当に入ったが、あまりにも物がぐっちゃぐちゃなので諦めてすぐ帰ったなんてこともあるのかもしれなかった。もしそうなら、部屋を掃除しておかなかった私のまさに勝利という結果である。 ――とはいえ、マジで侵入されたんだとしたらそれはそれでキモいし。……鍵、一応取り替えておこうかなあ。あ、でも今月あんまりお金ないや。  私はバッグをその辺に投げると、手洗いうがいをして再びリビングに戻ってきた。念のため、箪笥の中も確認する。ぐっちゃぐちゃに突っ込んである下着はそのまんま。その下にねじ込んだ通帳や現金、カードの類も手つかずだった。やはり、余計な心配だったようだ。 「はー、良かったあ」  やっぱり私が鍵をかけ忘れただけ、という可能性が高そうだ。私は心底胸を撫で下ろしたのだった。  だが。  この時、私は気付いていなかった。  もし、空き巣が部屋に入ったとして。目当ての貴重品の類が見つけられなさそうだと思った時、その泥棒はどうするのか。無論、諦めて即座に帰る奴もいるだろう。しかし、人の家に空き巣に入るような嫌に肝の据わった奴が、そうそう殊勝な決断をするものだろうか。ピッキングなんていう面倒な真似までして鍵を開けたなら尚更に。  そう、諦められない場合の泥棒が取る選択肢は一つ。  住人が家に帰ってくるのを待つのである。そして、その人物を脅して金を出させるのだ。つまり、ただの窃盗から、強盗に切り替えるのである。――そういう人間もいると、確かに私はニュースで見て知っていたはずなのに。  ベッドにどっかりと座った、まさにその時だったのだ。 「え」  ベッドの下から飛び出してきた手が、私の足を掴んだのである。  反対の手に、ぎらりと光る刃を握って。
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