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「――!」
ぎょっとさせられることになったのは、妹とそんな会話をしたまさにその日のことだった。
服やら財布やらを買いこんでほくほく気分で自宅に戻った私は、アパートに戻ったところで仰天させられることになるのである。玄関の鍵が、開いていたのだ。
――うっそ……!?私、鍵かけ忘れて出てった!?それとも……。
それとも、誰かに鍵を開けられてしまったか。もしそうなら、空き巣被害に遭っている可能性があるということになる。この家の鍵を持っているのは、私と、私が合いカギを託している妹と母くらいなものだった。しかし、妹も母も実家は愛知県である。ここは東京。ちょっと気軽に訪れるような距離ではないし、そんな予定もない。
私は恐る恐るドアを開いて、中を覗きこんだ。物音はしない。というか、わからない。なんせ、この安いアパートは線路や大きな道路のすぐ近くにあって、元々外の騒音がかなり煩いのだ(だからといって、夜中に掃除機をかけようとは思わないのだが)。今日はちょっと風持強いので雨戸もバタバタ言っている。中で多少音がしたところで気づくことは難しいだろう。不自然に電気がついている、なんて様子はないけれども。
――どっちだろう。ただの鍵のかけ忘れも空き巣も、どっちもありそうなんだよなあ。
自分のうっかりドジな性格は、私が一番よくわかっている。
同時に、このアパートの鍵の脆さも。築ウン十年のボロいこのアパートでは、以前にも鍵がかからなくなって鍵屋さんに連絡したことがあるのだ。私が何もしていなくても壊れることくらいは普通にありそうだし、そうでなくてもオートロックマンションのようなハイテクな鍵でないのは確かである。俗に言うピッキングとやらの難易度も、きっと低いのではなかろうか。
――だ、大丈夫大丈夫。きっと私が鍵をかけ忘れただけ。そうに決まってる……!
自分を安心させるように暗示をかけつつ、私は部屋の明かりをつけた。部屋の中はしっちゃかめっちゃかの状態だが、そもそもこれが“荒らされてそうなった”のか、“元々こういう状態だった”のかが自分でもわからなかった。部屋の脇に置かれたままのベッドの上には、脱ぎ散らかした服が散乱している。床も同様で、それ以外に目立つのは読んだままほったらかしにしてしまっている漫画の数々だった。妹と違い、私は少年漫画が大好きである。横の本棚にもみっちりと漫画が詰っているが、最近は入りきらなくて結構な数を床に置いてしまい、それが土砂崩れを起こすことも珍しくないのだった。
まあ、そこに散らばっている“無敵戦隊ジャックアレー!”のシリーズなんかは、完全に昨晩私が一気読みしてそのままになっている状態だろうが。
気になることがあると言えば、パソコンデスクの横のゴミ箱が倒れて、紙ゴミが散乱していることくらいか。
しかし、これも今日慌てて出て行く時にゴミ捨てをサボった記憶があり、またうっかり出かけるときに自分でつっかけたような気がしないでもない。――一応足の踏み場がある、という意味では今日の部屋はまだマシな状態だった。正直、異変が起きたと判断できる材料はない。
――一応、部屋の中を見て回るか。
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