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母と弟が自らの命を絶った邸宅。
俺にとっては全くいい思い出のない場所。
此処に香澄を連れて戻って来いと言うのか?
「戻って来ません…香澄は俺の部屋で暮らします」
「・・・私が貴方の母親・季実子(キミコ)に代わり…育てた恩を忘れたんですか?侑吾さん」
「忘れてはいません…」
「なら、どうしてこの私の言う事が訊けないの?昔はあんなに素直に私の言葉に従っていた癖に…恩知らず子だね…」
お婆様は持っていたマイセンのカップを俺に投げつけた。
カップは大理石の床に叩きつけられ、割れた。
カップの中には紅茶が残っていたようで、俺のスーツを濡らした。
割れたカップの音を訊き、村上さんがノックして入って来た。
「村上貴方も居たの?いいわ…侑吾さんのせいで、カップが割れたわ…直ぐに片づけて頂戴」
「承知しました…」
村上さんはお婆様の命令に従い、割れたカップを拾い始めた。
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