ウォータークラウン

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ウォータークラウン

 ねぇ秀夫、私にウォータークラウンを  プレゼントして欲しい。  子供の頃からずっと夢見てる。  ウォータークラウンを被ること。  プレゼントって……  どうやって?  無理に決まってるだろう?  水滴が地面に落ちた一瞬だけ出来る冠なんだから 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 「どうしていつも七海は、無理難題を俺に吹っかけて来るんだろう。わっかんないわ」 「よお!オレも座っていい?」 仕事場の外には小さな庭がある。 俺は庭のベンチが好きで、休憩時間中は座っていることが多い。 「どうぞ」 「なんかさ、最近やる気が出ないんだよ」 「武のやる気って仕事にか?」 「そう。ってかさ、それ以外ないでしょ」 「例えば、約束はしたものの、結婚したく無くなったとか」 「冗談でも止めてくれ。考えただけで震えてくる」 「武の結婚相手、名前なんだっけ。まぁいい。気が強そうだもんな、見るからに」 「名前は“ゆかり”だ。強いなんて表現じゃ、とうてい言い表わせないよ、彼女は」 「そんなに?大丈夫なのか、結婚して。 やっていける?」 「やるしかない。プロポーズしたからには。する前と、した後で、あんなに女は変わるとは知らなかった」 「ビフォーアフターだな。『何ということでしょう』な、彼女が武の奥さんになるわけだ」 「何とでも云え。後には引けないオレを笑えばいいさ」 「しかし、仕事にやる気が出ないんじゃ大変だな」 武は真顔で頷く。 「スランプなのかな。シルバーアクセサリーのデザインをして、造るのが凄く好きだったのに」 「または、責任感かもしれないな。一人の時とは違うだろ?結婚するんだから」 「あ〜それあるかもしれない。プレッシャーを感じる。前は仕事が嫌になったら辞めればいいくらいに思ってた」 「少しチカラを抜いてみたら?力み過ぎから来てるのかもしれないから」 「そうだな、そうして見る。サンキュー。 ところで秀夫の彼女、七海ちゃんは?最近見かけないけど。喧嘩でもした?」 「七海は彼女じゃないよ。同じ中学の後輩で家が近所なだけで。ヤバい!休憩時間終了。仕事に戻ろう」 俺と武は、慌てて冷めた缶コーヒーを飲み干して仕事に戻った。
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