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白い鳩を追いかけて、シルクハットをかぶり仕事道具のステッキを左手に握った記憶怪盗と、セーラー服姿の優花は、精神世界を飛ぶように移動する。
白い鳩は依頼人の強い願いが具象化されたもの。
依頼人の精神に繋がるドアの前で淡い輝きを放ちながら姿を消す。
「失礼いたします」
コンコンとドアを叩くと、内側からドアが開く。
顔を覗かせたのは端正な面差しをした青年だった。
「あんたたち、もしかして記憶怪盗?」
「はい」
そう答えると彼は満面の笑みを浮かべた。
「すげぇ、本当に来てくれた」
なまじイケメンだと笑顔も凶器になりうるんだな、と優花は思う。
(まあ、あたしは記憶怪盗さんの方が好みだけどね)
「お邪魔してよろしいでしょうか」
「もちろん。中へどうぞ」
青年は快くふたりを中へ招き入れ、ドアを閉めた。
そして3人は精神の深部めがけて跳ぶ。
通常、人の精神は他者の侵入を拒むため、十二階層にわたり警報装置が存在し、ひとたび警報が鳴れば迎撃システムが作動する。
けれど精神の持ち主と共にいる今は、警報装置も迎撃システムも作動しない。
故にすんなりと精神の最深部に降り立ったふたりは、青年と向かい合う。
「キミ可愛いね。女子高生?」
警戒した優花はすすっと記憶怪盗の背中の後ろに隠れた。
「彼女はわたくしの助手です」
「ああ、なれなれしくしてすみません。職業柄つい」
「ご職業は?」
「結婚詐欺師です。ま、捕まっちゃったんすけど」
「え?じゃあ今刑務所にいるってこと?」
思わず言葉を発した優花に、青年は明るく応える。
「ピンポーン!でも記憶怪盗はどこにいても来てくれるってマジだったんだな」
「……で、どういったご依頼でしょうか」
映画のフイルムのように宙に浮かび流れる記憶。
そこに映るひとりの女性を指して青年は言った。
「彼女の記憶を盗んでほしいんだ」
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