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後日、アジトで身支度を整えている記憶怪盗を待つ優花はボソッと呟く。
「なんで引き受けちゃったかなあ?」
結婚詐欺師の青年の依頼は、ある女性から自分と過ごした記憶を盗んでほしいというもの。
「引き受けてよい依頼だと判断したからですが?」
記憶怪盗が即答で引き受けたことに、優花は未だ納得しきれていない。
「だって、あの人結婚詐欺師だよ!?相手の望む人物像を演じるくらいわけないんじゃないの?」
「真剣かどうかは目を見ればわかりますよ。……と言いたいところですが、そもそも演技では依頼が届きませんから」
「大丈夫かなあ……」
記憶怪盗はシルクハットをかぶり、左手に仕事道具のステッキを握る。
「おしゃべりはこのくらいにして、参りますよ」
「はーい」
アジトに厳重なプロテクトをかけ、ふたりは精神世界へと飛び出した。
空を優雅に散歩しているかのように軽々と移動する記憶怪盗。
その背中をセーラー服姿の優花が追う。
今夜の獲物の精神につながるドアの前に立ち、記憶怪盗はステッキを握り直し構える。
すると、ステッキは片手剣に変形した。
「お邪魔いたします」
一礼し、レイピアの切っ先でいとも簡単に錠前を解除する。
素早く内側に忍びこみ、ふたりは精神の中めがけて跳ぶ。
警報装置を解除、あるいはくぐり抜けながら、第一階層から第十二階層まで突破した記憶怪盗と優花は精神の最深部に降り立った。
ふわふわと宙を流れていくのは今夜の獲物の記憶。
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