記憶怪盗と結婚詐欺師

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彼女が青年と出会ったのは、商店街の一角にある弁当屋。 手渡したしゃけ弁片手に、爽やかすぎて作りものみたいな笑顔。 「良かったら連絡してよ」 メールアドレスが書かれたメモはエプロンのポケットでくしゃくしゃになっていた。 「こんにちは」 諦めず弁当屋に通い続ける青年。 人懐っこい笑顔に負けて、彼女も思わず笑ってしまう。 「もし迷惑じゃなかったらデートしない?」 初めて一緒に出かけたのは色とりどりの花が満開の広い公園。 彼女が行きたいと言うところは、今まで騙してきた女性たちとはまるで正反対。 一緒に過ごすうちに、青年の笑顔が少しずつ柔らかく自然なものに変わっていく。 「良かったらうちに来てよ」 初めて足を踏み入れた彼の自宅は、家具の少ないどこか寂しさが漂う空間。 ソファでうたた寝する青年を横目に彼女は彼のスマートフォンを手に取る。 ……そのひと月後。 警察署の廊下、手錠をかけられた青年が刑事たちと共に歩いてきた。 視線の先に彼女の姿を捉えた青年は、彼女の正体を悟る。 けれどすれ違いざま、なぜか彼は静かに微笑んだ。 一閃。 記憶怪盗は青年にまつわる記憶のフイルムだけをレイピアで斬り落とし、優花が持つ透明なカプセルに閉じ込め、傷ひとつなくフイルムを繋げる。 依頼完了。 仕事道具をレイピアからステッキに戻した記憶怪盗と優花は宙へと飛び上がり、一気に精神に繋がるドアまで戻る。 そして静かに外へ出てドアを閉めた。
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