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精神世界の片隅にあるアジトに戻ると、記憶怪盗は記憶が入ったカプセルを粉砕装置に投げ入れた。
カプセルが、音を立てて砕かれていくのをふたりは言葉もなく見つめる。
「怪盗さんの言う通り、今回は引き受けていい依頼だったよ」
「急にどうしました?」
「あたし、あの人のことチャラい結婚詐欺師だから信用出来ないって簡単に判断してた。本当はあの女の人のこと、すごく大切に思ってたのに。人を見る目ないよねえ」
シュンとする優花の頭を、記憶怪盗はポンポンと撫でる。
「あなたはまだ若い。年をとって経験を重ねれば自然と鍛えられますよ」
「ほんとに?」
「ええ」
パッと花が咲くような笑顔を見せて、優花は記憶怪盗の腕に抱きつく。
「ありがとう。……怪盗さん大好き!」
「寝言は寝てから言って下さい」
「もー、すぐそうやって子ども扱いする」
優花の身体をぐいぐい押して遠ざけようとしながら記憶怪盗は言った。
「事実なんですから仕方ないでしょう」
「きっとあたし、セクシィでビュリフォないい女になるんだからね。今に見てろ!」
「はいはい、なれるものならなってみなさい」
「はいは一回、って言ったのは怪盗さんでしょ!!」
優花のふくれっ面を見て、記憶怪盗は笑いそうになるのを必死にこらえた。
……役者は舞台の上にいる限り演じ続けなければならない。
助手にしたのはしぶしぶで、ずっと一緒にいる気もない。ましてや可愛いなどとは思っていない。
うら若い彼女を裏の世界から遠ざけるために、彼はこれからも演じ続けると心に決めた。
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