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僕らは隣り合った部屋で隔離された。
目の前にはアバターのニコルがいるけれど、この壁の向こうには現実のニコルがいる。この距離感がもどかしい。一度手に入れた真実がもどかしい。真実に触れた僕にとって、VRはかえって味気なさと寂しさを倍加させる。隣にいるニコルに会いたい。
少しでも真実に近づけるために、アバターを自分の姿に合わせた。僕の視界から僕の両足が消え去った。ニコルも両腕が消え去った。その動きをアバターにリンクさせた。そうすると、その動きは現実の壁に隔たれてお互いのVRを行き合うことはできなくなったけれど、隣のコンパートメントで生活するニコルのそのままを感じることができた。
このニコルと会いたい。何の隔たりもなく。
「僕の左腕をニコルに捧げたい」
「私の右足をセルジュに捧げる」
思わず呟いたのは、未だユフの改変が少なく、人が互いの毒で死ぬ確率が低かったころに流行ったプロポーズの言葉。
しばらくして、結婚の申請は数十年ぶりにAIに受け入れられた。
結婚をすれば同じ部屋に暮らすことができる。僕らは互いの友人に結婚の報告をして、明日VRで結婚式を挙げる。
普通はそこでお仕舞だけれど、その後真実のニコルが僕の部屋に来る。
多分おそらく、その瞬間、僕らは互いの毒で死んでしまうだろう。
けれども仮想だらけのこの世界で直接に真実に出会うにはそれしかなかったから。
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