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今の人間の寿命は50年だ。
自分以外が毒である以上、自分を食べるしかない。最初の10年は生まれる前に摂取していたもの、つまり母親の体の一部を培養したものを食べて育つ。けれども次の10年は自分の四肢のどこかを選び、切り取って培養して食べる。細胞を生かしたまま安定して培養するには、四肢一本分程度の素材が必要だ、けれど10年経てばユフの自己改変が進み、10年前の自分ですら毒になる。10年ごとに一本ずつ新しい四肢を消費し、50になった時、培養できる新しい体がなくなって死ぬ。
僕らの食事は死と直結しすぎて、食事時の同席は家族でない限り禁忌になっていた。
ユフ後20年ほどはまだユフ毒の個体差は小さくて、人と人が直接顔を合わせられたらしい。けれども人のユフ差はどんどん広がり、今は生身で同席すれば、自分が排出するユフ毒か相手を死に至らしめる。
それが僕らが他人と直接会わなくなった理由。
金魚鉢で会うにしても簡単な防護服を着る必要がある。その現実を直視するのを忌避して、最近ではコンパートメントの中から出ずに人が多い。会うだけならVRで事足りるから。
けれども僕はニコルに会いたかった。わざわざ死ぬかもしれない外に行くってことは、ニコルが生きているように感じたから。世界に直接触れたいというニコル自身にとって、VRの僕は現実ではないんだろうから。
僕はどうしても、ニコルと生きて、接したかった。
外出の許可申請はニコルのいうように降りた。そして僕らは一緒に外に出ることにした。
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