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方術修行の最中に
雲仙国の後宮。
皇帝のための箱庭では、妃の元に皇帝のお渡りがあれば、厳粛に待つこととなる。
先にお渡りがあると通達のあった妃は頬を染めて寝所の支度をしていた。
やがて、皇帝の来た合図の、小さな鈴の音がちりんと鳴った。
「お待ちしておりました、陛下」
そう深々と頭を下げた。しかし。
沈黙が続く。普段であったら、妃にねぎらいの言葉のひとつかける方だというのに、様子がおかしい。
「あのう……陛下?」
返事はない。
やがて妃は気付いた。皇帝の目に、光が宿っていないことに。あらぬ方向を見て、おぼつかない足取りで歩き、やがて。寝台に倒れた。
妃は慌てる。
「陛下? 陛下?」
思わず妃は声をかけ、彼の肩に触れ、思わず体を跳ねさせる……いくら服を着込んでいるとはいえども、これだけかちこちに固まった体躯なんて触ったことはない。まるで鉄の棒でも仕込んだかのように、体は強張ってしまっている。
なによりも彼は、視点が全く定まっていない。妃のことすら、見ていないのだ。
とうとう妃は悲鳴を上げた。
「誰か、誰か来て! 陛下の様子が…………!!」
本来であれば、妃に皇帝の渡りがあったというのはめでたい話。終始妃の館に厳粛ながらも歓喜の空気が流れるはずなのに、その日は緊迫感で押し潰れる夜となってしまった次第であった。
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