第6花「愛」

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「……」  荒野を歩きながら、ナズナは空を見上げた。   いつもと同じ青空。  嫌に眩しい太陽が輝いていた。 「……どうした」 「……なんだか、急に寂しくなって」  セリはナズナの言葉を聞くと、足を止めた。  辺りには命の気配はなかった。  少し先には「森」が見えていて、鬱蒼とした木々が広がっている。  あそこに入れば、何かしらの生き物はいるだろう。  生き物がいるということは、食べるものも見つかるだろう。 「なんでしょうね。お腹の中がすーっと、空っぽになったみたいな」 「……腹でも減ったんだろう」 「違いますっ。もうっ。乙女心を分かっていないんですから」 「……どこに乙女がいるんだ」 「セリ。一回殴り合いましょうか? 」  半ば本気のナズナの問いに、セリは肩を竦めるだけだった。 「……私とセリって、どういう関係なんですかね」  拳を収めたナズナは、セリの隣で小さく呟いた。 「色々な郷で、色々な人を見てきて。でも私とセリと同じだなーって関係は、見たことないんです。スズナ姐さんとスズシロ姐さんも、ホトケノザさんとテトラさんも。なんとなく似てるけど、根っこは違うような」  セリは暫く考えているようだった。  いつもの無口とは違う、どこかごちゃごちゃした静けさだった。 「……分からん」 「ですよね。ちょっと安心しました」 「分からないが」 「俺はお前に何をされても、嫌ではない」 「えっ」 「まずいと思ったことは止める。必要なら力尽くでも止める。だがどんなことがあっても、俺はお前の隣にいたいと思う」 「ちょ、ちょっと‼︎ 前言いましたよね? 私達の関係は結婚とは違うって……」 「勿論だ。共に生きると約束できないからな」  ナズナは顔を赤くしながら、ぶんぶん腕を振っていた。 「じゃ、じゃあなんでそんな告白みたいなこと言うんですか……‼︎ あのですね。私は今ちょーっとセンチメンタルなんですっ‼︎ 変なこと言われたら、あれやこれやと気にしちゃう気分なんですよっ⁉︎ 」 「……嫌だったか。すまない」 「い、嫌じゃないですけど……むしろ嬉しいような、なんというか……」 「……安心しろ。お前のようなちんちくりんと受粉したいとは思わん」 「はぁぁ何言ってんですかこの雑草⁉︎ ちょっと殴らせてくださいっ‼︎ 」  ナズナの拳がセリの鳩尾に突き刺さった。  勢いのまま吹っ飛び、地面に叩きつけられるセリ。華奢な身体とは言え、根無し草の力で放たれるストレートはそれなりに強烈だった。 「はーっ、はーっ……‼︎ 」 「……乙女の腕から出る拳ではないぞ」  セリはゆらりと立ち上がると、コートに付いた砂を払う。  そして何事もなかったかのように歩み始めた。 「……俺とお前の関係など、どうでもいい」 「そーですよねっ。どーせ私はちんちくりんですよっ」 「……言葉では表せない、特別なものだと信じている」 「……っ⁉︎ 」  どこか歪な。どこか落ち着いた。  二人の根無し草は、鬱蒼とした森の中へと消えていった。 ーー続くーー
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