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「……」
荒野を歩きながら、ナズナは空を見上げた。
いつもと同じ青空。
嫌に眩しい太陽が輝いていた。
「……どうした」
「……なんだか、急に寂しくなって」
セリはナズナの言葉を聞くと、足を止めた。
辺りには命の気配はなかった。
少し先には「森」が見えていて、鬱蒼とした木々が広がっている。
あそこに入れば、何かしらの生き物はいるだろう。
生き物がいるということは、食べるものも見つかるだろう。
「なんでしょうね。お腹の中がすーっと、空っぽになったみたいな」
「……腹でも減ったんだろう」
「違いますっ。もうっ。乙女心を分かっていないんですから」
「……どこに乙女がいるんだ」
「セリ。一回殴り合いましょうか? 」
半ば本気のナズナの問いに、セリは肩を竦めるだけだった。
「……私とセリって、どういう関係なんですかね」
拳を収めたナズナは、セリの隣で小さく呟いた。
「色々な郷で、色々な人を見てきて。でも私とセリと同じだなーって関係は、見たことないんです。スズナ姐さんとスズシロ姐さんも、ホトケノザさんとテトラさんも。なんとなく似てるけど、根っこは違うような」
セリは暫く考えているようだった。
いつもの無口とは違う、どこかごちゃごちゃした静けさだった。
「……分からん」
「ですよね。ちょっと安心しました」
「分からないが」
「俺はお前に何をされても、嫌ではない」
「えっ」
「まずいと思ったことは止める。必要なら力尽くでも止める。だがどんなことがあっても、俺はお前の隣にいたいと思う」
「ちょ、ちょっと‼︎ 前言いましたよね? 私達の関係は結婚とは違うって……」
「勿論だ。共に生きると約束できないからな」
ナズナは顔を赤くしながら、ぶんぶん腕を振っていた。
「じゃ、じゃあなんでそんな告白みたいなこと言うんですか……‼︎ あのですね。私は今ちょーっとセンチメンタルなんですっ‼︎ 変なこと言われたら、あれやこれやと気にしちゃう気分なんですよっ⁉︎ 」
「……嫌だったか。すまない」
「い、嫌じゃないですけど……むしろ嬉しいような、なんというか……」
「……安心しろ。お前のようなちんちくりんと受粉したいとは思わん」
「はぁぁ何言ってんですかこの雑草⁉︎ ちょっと殴らせてくださいっ‼︎ 」
ナズナの拳がセリの鳩尾に突き刺さった。
勢いのまま吹っ飛び、地面に叩きつけられるセリ。華奢な身体とは言え、根無し草の力で放たれるストレートはそれなりに強烈だった。
「はーっ、はーっ……‼︎ 」
「……乙女の腕から出る拳ではないぞ」
セリはゆらりと立ち上がると、コートに付いた砂を払う。
そして何事もなかったかのように歩み始めた。
「……俺とお前の関係など、どうでもいい」
「そーですよねっ。どーせ私はちんちくりんですよっ」
「……言葉では表せない、特別なものだと信じている」
「……っ⁉︎ 」
どこか歪な。どこか落ち着いた。
二人の根無し草は、鬱蒼とした森の中へと消えていった。
ーー続くーー
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