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高3の夏はあっという間に過ぎて行った。 夏期講習や、時々学校に行ったりと忙しい中で図書館にも通った。 図書館に行くと、3回に1回くらいは蒼人に会えた。 連絡先は交換してあるのだからちゃちゃっとメッセージでも送って約束すればいいだけの話なのだけれど、何故だかそれができなくて、そわそわと時間を見つけては図書館に行った。 「あ、この本……」 その本を見つけたのは本当にたまたまの偶然だった。 屋外のあまりの暑さに館内に避難し、自習コーナーで勉強をしようかと空いている席を探していたら、姉ちゃんの友達の後ろ姿をみつけた。 俺がこんなところにいるなんて姉ちゃんの耳に入ったらまたうるさいことになりそうだと、逃げるように本棚の奥へ隠れる。 絵本でも、流行りの小説でも、レシピ本でも無い。きっともう長いこと手に取られていないのだろうと思わされるような本たちが犇く本棚と本棚のひんやりと静かな空間。 一冊、手に取る。 忘れられたような本棚にそっと佇むこの一冊を読んでいた横顔を、俺は知っていたから。 「この本……蒼人が読んでた本だ。」 そう、あの時。 初めて蒼人とここで会った時、蒼人が読んでいたあの本。 深い、ビロードみたいな赤い色の表紙。
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