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そよそよと風が頬を撫で、うっかり微睡みかけたその時 「にゃぁ」 と、掠れた猫の鳴き声がした、気がした。 ガバリと起き上がると、ノートから顔を上げた蒼人と目が合った。 「っ、びっくりした。どした?」 「……いま」 今そこに…… 「なんでもない。へへ、寝ぼけた。」 いるわけないか。 いるわけ、ない。 「……そーだ朱音、これ食べる?」 蒼人がブレザーのポケットからとりだしたのは俺がいつも買う棒付きキャンディだった。 新商品だろうか。見たことのない色の包み紙。 「食うー。何味?」 「いちごみるく。」 定番のフレーバーだ。好きなやつ。 ころりと手のひらに載せられたキャンディ。 「わーい。さんきゅ。」 「『わーい』て。」 蒼人はくっくと笑う。 やっぱり見たことないやつ、期間限定とかかな、って、 「えっ、なにこれめっちゃかわいい!ネコになってる!」 丸いキャンディのパッケージににくめないネコの顔。小さな三角の突起が2つぽちぽちと耳まで付いている。 「かわいすぎん??どしたのこれ??」 「コンビニに売ってた。朱音、そういうの好きかと思って。」 「えーめっちゃ好き!」 「他のねこもいたよ。」 「まじかぁ。」 棒を摘んでくるくる回してみる。 「食べるのもったいねーな。」 「そう言うと思って。」 『じゃじゃん』と、珍しく蒼人は戯け、 「なんとここにふつーのやつもあります。」 「ぅははっまじか。」 それから2人でキャンディを口の中でころころさせながら勉強をした。 蒼人のがチョコレート、俺のはいちごみるく。 俺はバカだから 一生懸命覚えた数式も、英単語も、そのうち忘れてしまうだろう。 けど初夏の風に混じったキャンディの甘い香りはきっとずっと忘れないのかもしれない、とか 1人になった帰り道で、そんなことを考えながら歩いた。 ポケットからキャンディを取り出す。 棒を持って空にかざすと、包み紙に描かれたねこがにっこり笑っているように見えた。 空には夕焼けの名残が残っていた。 明日もきっと晴れだろう。
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