ビー玉泥棒

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「玉井、泥棒したと?」  その一言に息を呑んだ。探していた本人がその場にいたことに、なぜか全身が冷えて動けなかった。震えそうな指先をギュッと握って、ゆっくりと《犯人》を見た。  玉井は細い目の端が吊り上がっていて、身体も大きかった。クラスで背丈が前から3番目の僕からすると、上級生ほどもある玉井に勝てないことは一目瞭然だった。 「(なん)言いよるか分からん」  玉井の言葉に、僕は「でも......」と蟻のような小さな声で対抗した。今ここでは先生が見守っている。殴られたりしないはず。ずっと握りしめていた空のラムネ便を、そいつの前に突きつけた。 「僕のビー玉、とったんやろ」 「ああ」  玉井はズボンの尻ポケットに手を入れて、取り出したビー玉を躊躇いなく見せた。青を含んだガラス玉に、みんなの目が吸い寄せられた。 「これ、お前のやったんか。瓶が捨てられとるって思っとったけん」  玉井はそれをすぐに返してくれた。ティッシュに大切そうに包まれていた。
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