ビー玉泥棒

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「ビー......同じクラスの男子ってどんな子やったん?」  何気なく聞いた風を装って尋ねた。考えてみたら、僕は玉井のことはよく知らない。藤さんはお腹の底から溜め息を吐いた。 「頭良くて、運動もできて、真面目で、クラス委員だった」  並べられた賛辞には、なんの色もついていなかった。 「......仲悪かったん」 「良かったよ」  僕の質問は、藤さんの答えに真っ二つに斬られてしまった。静かになった教室に、遠くの教室から木管(クラリネット)の音階が届いた。  しばらくの沈黙の後、ようやく藤さんは口を開いた。 「その子が盗んだって、私がチクった。友達やったけど、悪いことしたらいかんけん」 「藤さんらしいやん」 「けど、それが原因で、その子虐められるようになって、結局転校した」  藤さんは俯いて唇を噛んだ。眼鏡に夕陽が反射して、その奥の目の表情は見えなかった。
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