ビー玉泥棒

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*** 「いや、無理やろ」  僕は本屋で思わず呟いた。恍惚とした脳が現実に引き戻された。見ていた分厚い参考書を閉じて棚に戻し、足早に逃げ去った。  そもそも藤さんの成績は上の上。こっちは中の上。それに藤さんはそんなことを言うキャラじゃない。やっぱり夢だったかもしれない。  藤さんと仲良くなったきっかけは、彼女が休んだ3日分のノートを、たまたま隣の席だった僕に貸してやれと先生が言ったことだった。  今の時代、電子的に送ることだってできるのに、手抜きだと思った。  貸すと思ってなかったから、落書きだらけのノート。分からなくて暇な授業ほど、紙面は絵で埋め尽くされていた。  優等生(藤さん)は僕が嫌々ながら貸したノートを開いて、目をまん丸にした。   ーー馬鹿やと思われとるやろうな。  俯いて下唇を噛んだ時...... 『ふっ......』  惨めな僕を救ったのは、藤さんの笑顔だった。眉をハの字に下げて、口を押さえて必死に堪えている。  いつも真面目な横顔や端の吊り上がった目しか見たことないから意外だった。  重かった僕の心に羽が生えた。
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