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『エー、このコウシキはぁ』
『ちょっ......やめ』
落書きしていた数学の先生の顔にアテレコすると、藤さんは堪えきれず噴き出した。
学年一頭のいい女子が、僕の絵を見て笑っている。漫画家になりたい僕の自尊心が飛び上がった。
一頻り笑った後、藤さんは困ったように笑っていた。
『島本くん、これ分からんかったん?』
『うん。ごめんけど、正直分からん』
その時は素直になって頷くことができた。
『もし良かったら私が教えちゃろっか』
『ええっ!? いいと?』
初めてまともに話した、藤さんの地元感バリバリの話し方に、安心と驚き。そしてその申し出に僕は飛び上がった。
かくして、僕と藤さんの距離は急に詰まった訳だが。
*****
とぼとぼと線路沿いの道を歩いていると、突然けたたましい遮断機の音。渡ろうとしていた線路を、黒と黄色のシマシマ棒に遮られた。僕の他にこちら側には人がいなかった。
電車の風圧と轟音が通り抜けた後、遮断機が鳴り止んで一瞬のうちに静かになる。
ゲートが開いた向こう側には3人。そのうちの一人は、久しぶりに見たのに、遠くからでもなぜかすぐに分かった。
「......ビー玉」
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