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名前は確か玉井。《ビー玉》は彼の不名誉なあだ名だ。
玉井は私立中学校の制服を着ていた。あの後どれほどかして引っ越したんだろうか。顔を見なかったのはそのためだろう。
玉井は線路を大股で渡り、眉根を寄せた顔を僕に突きつけた。と思ったら「ぶはっ」と噴き出した。
「久しぶりに聞いた、それ」
「僕のこと覚えとる?」
「誰が忘れるか」
あまりの言いように、僕の方が顰めっ面になった。
「言っとくけど、僕が被害者やけん」
「もう忘れろって」
「何、それ」
僕も思わず笑ってしまった。
「島本、やったよね。今帰り?」
「ううん、図書館行こって思っとった」
そこで気晴らしに絵でも描くかと。図書館はすぐそこに見えている。
「先にそこの駄菓子屋に行かん? ラムネでも奢るけん」
成長しても相変わらず僕より頭ひとつ分背の高い玉井の申し出に、僕は後ろ頭を掻いた。
「まあ、おごられよっかな」
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