部下と真白

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 真白が言うには、数時間程前になんの前触れもなしに武蔵野という地域から鬼の帝、通称『銀の君』の使い鬼の団体が大江里に来たらしい。  なんでも鬼の帝が、大江里に酒呑童子の血筋を持つ者が戻ってきたという話を耳にし、『なんでももっとはやく報告しないんだバカタレ。会って話がしたいから連れてまいれ』とかなんとか命令したそうで。  大江里の鬼たちは、酒呑童子の子孫は人間の女と結婚し人間界に戻ったんだと説明したのだが、『んなもん知るか!最強の鬼であらせられる主君の命令だぞ!連れてこいって言われてんだから連れてかなきゃいけないんだよ!さっさと呼び戻せってぇんだよ!』と使い鬼が物凄い剣幕で迫ってきたので、代表して真白が俺を呼びに人間界に出てきたと、まあそういうことだそうだ 「銀の君の命令に背けば、里の鬼は全滅されかねません。…だから、頼みます。一日、二日だけでもええんで、戻ってくれませんかっ?」  真白が頭を下げて頼んでくる。  今年の目標を『懐の深い男に、俺はなる!』と年明けに決めていたが、この状況は懐を深くしてる場合ではないと思うんだ。  鬼の血がまだ薄い俺も、あの世界の空気を吸い、あの世界のものを食うと、鬼としての血が濃くなっていくと、確か馬場園さんが言っていた。 「悪いが、どんなに頼まれても行く気はない。使いの鬼にそう伝えてくれ」  真白の落ち込む様子に胸が痛まないわけではないが、俺も人間としての自分を守りたい。  完全に鬼になんかなったらたまんねぇんだよ…。
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