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さっきまで世間話で盛り上がっていた場が静寂とした。
二日くらいいいじゃないですか、と横入れされると思ったが、意外にも彩羽は何も言わなかった。ただ同情するような目を真白に向けている。
謝っておくべきかと思い口を開いた時だった。
俯いていた真白は、風のような速さで彩羽を腕にかき抱き、大きく後ろへ飛んだ。
人間なら到底無理な跳躍力に驚いたが、彩羽を連れていかれた焦燥感に一気に苛まれる。
「何してんだよっ!」
「ぎゃあっ、ちょ、放してっ」
「本当はこないなことしたないのですが、銀の君の怒りは何があっても買いたないんです。彩羽が心配なら大江里まで来てください」
真白はそう声を張るや、上へ大きく飛び、彩羽を抱いたまま空中で角を掴み「変化解放」と叫んだ。
途端に肌の白い鬼の姿に変わった真白は、建物の屋根に着地し走って行く。
おいおいっ!人に見られたらまずいんじゃないのか!?
ってそんなことはどうでもいい!
「おい待て!とまれ!」
俺がどれだけ叫んでも真白は止まってくれず、ものすごい速さで屋根を飛ぶように走り去っていく。
突然のことで立ち尽くしてしまっていたが、「部長おぉぉっ!」と遠くから聞こえた彩羽の叫び声に覚醒する。
すぐに大通りに目をやると、タクシーが向かっていることに気づいた。
「とまれ!」
両腕を振り回して絶対止まってくれ!を全身で表していると、そのタクシーは俺の前に止まってくれた。一秒も惜しくて少々乱暴に乗り込むと、目尻の下がった温厚そうな運転手が振り返る。
「お客さん、どちらまでぇ?」
「大江山まで頼む」
「えっ、大江山?ここからぁ?遠いよぉ?」
「わかってる」
「えぇ、今から大江山行くのぉ?」
「行くんだよ!頼むから行ってくれっ、嫁が攫われたんだよっ!」
「ええぇっ!?そりゃ大変やぁ!」
運転手は血相を変えてアクセルを踏んだ。
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