第1章 千鶴  1

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 テレビドラマに出てきそうな、いかにも水商売という出で立ちなのが、かえってまだこの世界に入って日が浅いことを露呈させていた。  肩より少し長いブラウンの髪は、自分で染めたのかムラになっていて貧相だ。この商売で生き残っていく女は、こういうところにこそ気を配る。  酔っているのだろう、ご機嫌な感じで鼻歌を歌いながら銀行の脇を通って商店街を横切っていく。すぐそばの柱の影に俺が立ち、見ていることにも気づかない。  女は、デパートの角にある神社の前に立つと、その鳥居をくぐった。  神社といっても、別の市に本宮がある本当に小さな分霊社(ぶんれいしゃ)で、鳥居は人が一人か二人くぐるのがやっと、数歩も歩けば小さな祠がある。  祠の前に立った女は、バッグから何かを取り出した。そしてバッグを敷石に置くと、周りをうかがうように見て誰もいないのを確かめてから、その取り出したものを祠の前に置いて、二礼二拍手すると何事かうなり始めた。  それがしばらく続き、やっと気が済んだのか一礼すると、バッグを持って鳥居を出て、デパートの本館と別館の間の細い道へとよたよたと消えて行った。
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