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女の姿が見えなくなるのを見送ってから、俺はつい好奇心にかられて女が何を置いていったのか見に行った。祠には、ラップで包まれた握り飯が一個供えられていた。
「兄ちゃん、それ、俺にくれ」
急に背後から声をかけられて驚いて振り向くと、初老のホームレスが鳥居の所に立っていた。かなり年季の入ったホームレスで、離れていても匂ってきそうだ。
そいつが遠慮なく鳥居をくぐって迫ってくるので、俺は思わず横に飛び退く。すると、ホームレスはさっき女が置いて行ったばかりの握り飯を取ってラップをはずすと貪りついた。
「いいのかよ」
俺は責めるように言った。
「それ、お供物だぞ」
するとホームレスは食べるのを止めて、「どうせ朝になったら、カラスに食われるんだからな」と開き直った。
ホームレスはあっという間に握り飯を食べ終えると、満足げな顔で商店街の先の定禅寺通の方へ去って行った。定禅寺通を渡った先にある勾当台公園で野宿しているのだろう。
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