4年

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「彼女さんに連絡ですか?」  顔をあげると鷲見が悪戯っぽく笑っていた。 「悪い?」 「いいえ。仲が良さそうで何よりです。でも、私に勉強を教えてたりしてても問題ないですか? 彼女さん、就活長引いたりしているんですよね」 「うん。ちゃんと前に話したことあるから。『イイことだと思う』って言ってたし」 「…………ん?」  鷲見は首を傾げた。数学Bの問題以上に難しそうな顔で。 「今の話、微妙に引っかかったんですけど」 「何が?」 「話したことあるんですよね? 私に勉強を教えてること」 「そうだよ。ちゃんと話した」 「じゃあは?」 「え、彩葉は就活でいろいろ大変みたいだから、特に言ってないかな」 「……今日、ここで私に教えてることは?」 「言ってないよ。この後、会うつもりだったし。あっちが面接でダメになったけど」  鷲見は少し引きつった顔をして目線を逸らした。そこには何もないのに。 「……私、帰ったほうがいい気がする」 「え?」 「なんか、彼女さんに悪い気がしてきた。ちゃんともう一回彼女さんに話したほうがいいです」  鷲見はそそくさと開いていた参考書やノートなどをカバンにしまいはじめた。 「なんだよ? そんなに気にすることかなぁ」  敢えてゆっくりめに話した僕の顔を見て、鷲見はため息をついた。 「勉強みてほしいといった私が言うのもなんですけど、もう少し彼女さんを大事にしてください」 「なんだそれ」 「ベクトルがズレてる気がします。ただの勘ですけど」  さっき勉強していた数学Bに例えて鷲見は言ったが、わかるような、わからないようなものだった。  一人でファミレスにいる理由がないので、僕も鷲見と一緒に店を出た。  僕と鷲見は乗る電車の方角が異なるので、駅の改札口に入ったところで別れた。  桜木町方面に乗るために階段を登ろうとすると、前方から夕陽が差し込んで眩しかった。逆光だったが何段か上に誰かが立っていて、こちらを見降ろしているらしいことがわかった。  誰? と思った次の瞬間、僕はわかった。逆光に照らされながら立っているのは彩葉だと。
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