1年

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1年

 大学に入ったとき、最初の英語の講義でナナメ前に滝下彩葉(たきしたいろは)は座っていた。  その横顔を見て大人っぽい子だなあと思っていた。  いつかは話してみたいなと思っていたが、何も始まることはないまま後期になった。 *  その日、僕は休講があった都合で3号館横を抜けたところにあるベンチでスマホを触っていた。まだこの後にも授業があったので、なんとなく時間潰しをしていただけだった。  ふと前に誰かが立った気配を感じて顔をあげるとそこにいたのは滝下彩葉だった。  なぜ僕の前に彼女がいるのだ、何が起きたんだ? と思っていると、彼女はスッと右手を胸ぐらいの高さまであ挙げてから、白く細い人差し指で何かを指さした。  その先を目で追うとベンチ横にある僕のカバンがあった。  「まさか、横に座りたいとか?」と淡い、いや哀れな妄想が頭の中を過ぎったが、 「紅葉、入りまくってるけど大丈夫?」  という彼女の声で僕は気づいた。  僕のカバンはだらしなく開いていて、赤い葉が何枚も乗っていることに。  見上げるまでもなく、ここは紅葉の木の下だ。僕はカバンを開けっ放しにしてベンチに座っていた。スマホをぼんやりといじっている間に、何枚もの紅葉が落ちてきたのだろう。教科書の上に何枚もの赤い紅葉の葉が乗っていた。 「うわ」  僕が情けない声をあげていると、 「カバンの中に紅葉……、なんか風情がある気もするね」  という声が聞こえた。また顔をあげると彼女は満面の笑みを浮かべていた。 「突然声かけてごめんね。あのさ、同じクラスだよね? 私、滝下」  そう言うと彼女は僕の返答を待たずに去っていった。  滝下、と名乗られるまでもなく、僕は彼女の名前が滝下彩葉で、読み方が「たきしたいろは」であるとことまで知っている、とは言わなかった。  秋、僕は恋に落ちた。
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