2 🔒🍌☕️

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黙る私の頭を、彼の手が羽を触るように優しく撫でる。 ふわりふわり、ゆったりとした動きで繰り返されて、興奮していた私の心を鎮めてくる。 「反応したっておかしくない。そうなるように俺が仕向けてるんだから、認めてくれていいんだよ」 「……」 「何のために俺が、ありったけの愛情を君に、君だけに、余すことなく注いでると思ってるの?」 そう微笑んだ熱い唇が、額に落ちる。 『愛情』 それは、私がかつて求めていたもの。 かつて私が注ぐ予定でいたはずのもの。 そして私が、それを知る前に手放すことになったもの……。 こんなにも甘ったるいものだと、私は知らない。 知らないから、嘘なんだと、何かの罠なんだと、(おとし)めるための戦略なんだと、身構えている自分がいる。 素直になんて受け取れるわけない、だって私は本当の『愛情』なんてもの、知らないんだから。 「ずっと疑ってることは知ってる。疑うことで現状を保とうとしていることも、わかってるよ」 「……言ってる意味が、わからない」 「疑いを晴らすまでには、それなりの期間と、安定と、慣れが必要なんだよ」 わからない……いや、あたしはその言葉を理解したくないだけだ。 目を瞑って、耳を塞いで、そんなことなんて考える暇なく、ただ……ただこの男を殺したい、襲っていたい。 その襲い掛かっている瞬間は敵だから、その時間はなにもかも忘れて楽でいられるから。 『愛情』なんてものを知ったら、その時間をつくれなくなるじゃないか。 殺意に、抵抗感が沸いてしまうじゃないか……。 「アンタは残酷」 「……うん」 「仕向けてるって意味もわかんないし、アンタの『愛情』なんて絶対嘘、だし……」 「残念ながら嘘ではないんだけどねぇ」 「絶対嘘、嘘で……嘘でいてよ。じゃないと私、まだ……」 未だに現状を受け止めきれてない私。 乗り越えるにはまだまだ時間が足りなくて、他のことにまで気が回らない。 こぼれ落ちそうな涙を、男が目の端に吸い付いて流れを止める。 だから、いちいち舐めたり吸ったり、なんなの。 なんなのよ、この男は。 一体なんで……こんなに甘ったるくて、いちいち私の話を聞いて、擦り込むような言葉で絡めてきて、それでいて現実から目を背けさせてはくれないの。 殺しに行くこと以外は寝込んでいるような私のこと、同じ家にいて飽きないのだろうか。 私が寝込んでいる間、外に出ている気配もしないけど、一体普段何をしているんだろうか。 初日に(投げつけて)壊したお掃除ロボを思い返し、家事はどうしているのかと、それすらも私はこれまで気にする事がなかったことに、初めて気が付いた。
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