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黙る私の頭を、彼の手が羽を触るように優しく撫でる。
ふわりふわり、ゆったりとした動きで繰り返されて、興奮していた私の心を鎮めてくる。
「反応したっておかしくない。そうなるように俺が仕向けてるんだから、認めてくれていいんだよ」
「……」
「何のために俺が、ありったけの愛情を君に、君だけに、余すことなく注いでると思ってるの?」
そう微笑んだ熱い唇が、額に落ちる。
『愛情』
それは、私がかつて求めていたもの。
かつて私が注ぐ予定でいたはずのもの。
そして私が、それを知る前に手放すことになったもの……。
こんなにも甘ったるいものだと、私は知らない。
知らないから、嘘なんだと、何かの罠なんだと、貶めるための戦略なんだと、身構えている自分がいる。
素直になんて受け取れるわけない、だって私は本当の『愛情』なんてもの、知らないんだから。
「ずっと疑ってることは知ってる。疑うことで現状を保とうとしていることも、わかってるよ」
「……言ってる意味が、わからない」
「疑いを晴らすまでには、それなりの期間と、安定と、慣れが必要なんだよ」
わからない……いや、あたしはその言葉を理解したくないだけだ。
目を瞑って、耳を塞いで、そんなことなんて考える暇なく、ただ……ただこの男を殺したい、襲っていたい。
その襲い掛かっている瞬間は敵だから、その時間はなにもかも忘れて楽でいられるから。
『愛情』なんてものを知ったら、その時間をつくれなくなるじゃないか。
殺意に、抵抗感が沸いてしまうじゃないか……。
「アンタは残酷」
「……うん」
「仕向けてるって意味もわかんないし、アンタの『愛情』なんて絶対嘘、だし……」
「残念ながら嘘ではないんだけどねぇ」
「絶対嘘、嘘で……嘘でいてよ。じゃないと私、まだ……」
未だに現状を受け止めきれてない私。
乗り越えるにはまだまだ時間が足りなくて、他のことにまで気が回らない。
こぼれ落ちそうな涙を、男が目の端に吸い付いて流れを止める。
だから、いちいち舐めたり吸ったり、なんなの。
なんなのよ、この男は。
一体なんで……こんなに甘ったるくて、いちいち私の話を聞いて、擦り込むような言葉で絡めてきて、それでいて現実から目を背けさせてはくれないの。
殺しに行くこと以外は寝込んでいるような私のこと、同じ家にいて飽きないのだろうか。
私が寝込んでいる間、外に出ている気配もしないけど、一体普段何をしているんだろうか。
初日に(投げつけて)壊したお掃除ロボを思い返し、家事はどうしているのかと、それすらも私はこれまで気にする事がなかったことに、初めて気が付いた。
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