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一度考え始めてしまったら、それは止まることを知らない。
この家に女が住み着いていて大丈夫なのか?
恋人の存在は?
この瞬間、初めて彼に『興味』を示し始めてしまったのかもしれない。
私のことを『好き』だと、嘘だとしても初めてその言葉を私に向けて口に出した、その男──。
彼の、名前は……?
そんなことにすら、私は、これまで興味を示さずにいて。
それを知ってしまえば、少なくとも情が出てしまう。
知らないから、知らないままこの2ヶ月間を過ごしてきたから、加減なんてなしに全力で当たって来れた。
躊躇なんてする余裕もなく、ただひたすらに、彼を殺すことばかり考えて。
なのに今更、今更名前のことが気になるなんて、どういうことなの……?
彼を瞳に映す視界が、揺れる。
それは動揺、躊躇い、自分の中の倫理感が再び活動を始める、静かな音。
「どうしたの?」
その異変にいち早く気付くのは、名前すら知らない、柔らかな笑みを向ける男。
布団にくるまれた私の上に乗り上げて見下ろす、藍色の髪の見慣れてしまった顔。
私は気付く、この男が最初から不安や動揺なんて示さなかったことに。
それは、どんなことがあっても想定範囲内だったのだろう事に。
ここに来て"気付いて"しまうことすらも、きっと
彼に仕組まれたレールの一部だと、いうことに。
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