2 🔒🍌☕️

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「離、して」 きっと、気付いてしまった時点で、私は『負け』ていたのだ。 私のなかの狂気が、どんどん削られていくのを感じていた。 それでも衝動のままに、条件反射で男を見る度に、とにかくひたすら攻撃を仕掛けないといけないと、暴れて、憎んで、何も考えずに突っ走り続けて。 気付いてた、彼が私に害を与える気が無いことに。 気付いてた、私がどれだけ彼を憎もうと、彼の瞳は変わらない優しさを向けていたことに。 気付いてた、『責任者』だという彼は、加害者とは別人であるという事実に。 気付いてた、彼が私の憎しみを煽って、狂気を自分に向けるよう仕向けていたことに。 本当は頭の片隅で気付いてた。 でも気付かないフリをしていた、流される方が楽になれたから。 それで助けられていたから。 私はこれでいいのだと、このままでいたいのだと、思ってしまっていたから。 「離したくないなぁ」 それは、『離して』という私の訴えへの返答だとわかっている。 けれど、今の私には、それだけの意味には聞こえなくなってしまっていて。 「困る」 「困ってるの?」 私がこくりと頷くと、彼は少し体を起こした。 けれど私は、捕えられたまま、動けない。 「そんなに睨んでると困ってるようには見えないね」 「動けないようにされて、困らないはずがないんだけど」 「まぁ、それをまず仕掛けてきたのは君なんだけどね」 首に指が触れ、つぅ……と撫で上げる。 噛みつこうとすればサッとかわされて、顔を向けた反対側の首にまた、触れるだけのキスをされる。 この男、私の行動先読みして釣ったな? 腕が動くならビンタしたかった。 「もうちょっと楽しんでいたい……とも思うんだけど、一応用があって来たから、そっちを優先するよ。続きはまた次回ね?」 「……用?」 「そう。バナナジュース、飲む?」 会話の流れから全く外れた場所から、ボールが後頭部を直撃してきたような。 そんな言葉に、私の中の全ての思考が止まる。 「……は?」 渾身の、間抜けな『は?』という言葉がこの部屋にポツリと響き、私の脳内もそれ一色になった。 それより前の会話や考え事が全て抜け出してしまったような、衝撃感。 まって、今ちょっと脳内シリアスな雰囲気が流れてたはずだったんだけど。 え、なに、急に? 今、バナナジュースって言った? どこから出てきたのそれ? 「は?」 「二度言ったね」 爽やかな笑みを浮かべてそう言う男は、さっきまで甘ったるいキスを私のあちこちに落としていた男。 「既に作っちゃったからさぁ、すぐ飲んでもらいたいんだけど」 「……は?」 「三度目だよ?大丈夫?」 なんの罠なのかと、疑ったくらいだ。
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