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うーん……と首を捻って考える動作をした男は、直後に私の背と膝裏に布団ごと腕を入れ、持ち上げる。
簀巻きの状態で持ち上げられた私は掴める場所もなく、『わ、わ、』と慌てふためくしかできず、そのままダイニングまで連れてこられてソファーに座らされた。
秋の始めといっても残暑の残る中で布団にくるまれ、抵抗するのに動き回っていた私は、ソファーに座った時点でかなり全身が熱くなっていた。
夏用だとしても布団にくるまれて暴れてりゃ、そりゃ暑いに決まってる。
「いい感じに顔が赤くなってて可愛いね」
男に降ろされ、すぐに布団の出口をごそごそと探して引っぺがした私を横目に、彼がくすくす笑う。
イラついて布団を床に叩き落とした。
ふんわりとしていて叩き落とし甲斐がなかったけれど。
「はいどうぞ」
そう言って渡されたのは、コップに薄く水滴の付いた乳白色の液体……彼の言っていたバナナジュースだろう。
最初言われた時は飲む気なんてなかったけれど、その水滴がいかにこの飲み物の『冷たさ』を表しているのかを察した時、布団で暑くなって喉がからからに乾いている体がその冷えているだろう飲み物を欲して、グラスに手を伸ばす。
ひんやりとしたグラスの冷気を感じてから、それを一気に喉へ流し込むと、心地よいとろみが体を冷やしてくれた。
「冷凍庫に入れていたものを使ったから、冷たくておいしいでしょう?」
気付けば半分飲み切っていて、冷たさの後から甘い後味が舌を撫でる。
私は口元に手を当てて、自分が固形物だったものを飲めたことに驚いて、思わず腹部に視線を落とす。
固形物だったものが軽々と喉を通っていくことに、単純に驚いた。
湧き上がるような熱さや、胃のキュッと締め出すような感覚は、今のところない。
「あんまり一気飲みすると冷えちゃうから、残りはゆっくり飲んでね」
驚いている顔をそのまま男に向けると、彼は首を傾けて私の言葉を待つ。
私は視線を左右に彷徨わせてから、口を開くか少し悩み……けれどこの感動を少しだけ伝えるくらいなら、と口を開く。
「………………おい、しぃ」
こんなにちゃんとした『おいしさ』を感じられたのは、半年ぶりかもしれない。
それまでなかなか口に含めても、落ち着いて味を感じられることなんて、なかったのだから。
私はちゃんと味を感じられている、このほのかな甘みを受け取れて、味わうことが出来ている。
久しぶりの感覚に、頬が緩んでしまうのを感じた。
男に再び視線を戻すと、その表情からいつもの甘ったるい笑みが消えている。
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