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数日後、『ピンポーン』という高いチャイムの音が、家の中に鳴り響く。 音に反応して時計を見れば、13時を指していた。 それが指すものは、週に一度来る『お話』の時間。 ここへ来たばかりの頃から来ている、女の人との、お話の時間を告げるチャイム。 廊下を歩く男の足音、そして玄関の開閉音の後に聞き取れない程度の会話の音が耳に届く。 その人が私の知らない彼の名前を呼んでいるかもしれないと気にはなるものの、扉越しでの声は聞き取れなくて早々に諦めた。 一度気になってしまうと頭の片隅にずっと残っているものだ。 今更感だとか、殺す相手に親しみを持ちたくないからという理由で直接本人に名前を聞く気なんてないけれど、気になり始めてしまうそれは無視できない。 それからこの寝室の扉がノックされ、彼女の訪問を告げる。 「失礼しますね」 その、私より少し高い女性的な声が扉の外から聴こえるけれど、私は返事をしない。 勝手にすればいいと最初の頃に言ったのは私だし、迎えるのが億劫だから。 今朝だって、例のごとく男の寝込みを襲おうとしてペットボトルいっぱいに入った水を男の口に突っ込もうとしたところで返り討ちに合い、服を水浸しにされてそのまま風呂場でシャワーを服ごとかけられて色々と抵抗し終えてから意識を落とした私は、また例の如く昼頃に目を覚ましていた。 起きたばかりの体は、酷く重いから、動きたくない。 ふんわりとした温かな雰囲気を漂わせる三十代くらいのその人に、ベッドの上で寝ているまま視線を向ける。 私が怖くないのだろうか? 彼を殺しに毎日毎日目を血走らせて、あらゆる手段で襲い掛かっていることを、この人も知っているだろうに。 マグカップを彼に投げる所も、カーテンをビリビリと引きちぎって投げつける所も、椅子を床に叩きつけて威嚇したこともあっただろうに。 必死だったから、そんな記憶もうっすらとしか覚えていないけれど、普通の人にとったら関わり合いたくないと思うだろうに。 それでも、この人は私の元に毎週一度、現れる。 「寝転んで空を見ていたの?」 「……」 「ここは空が近くて、よく見えるわね」 ただ同じ空間を過ごす人。 私が黙っていようが話そうが、過剰に動じず、ただ決まった時間、同じ時間を過ごす人。 彼女がいる時、あの男はこの場に現れない。 『知らない人と二人きり』という時間を、定期的に作られているんだと思う。 彼女についての説明は聞いたのかもしれないけれど、ここへ来て初めの頃は今よりずっと荒れていて、精神がボロボロで、全然記憶になんて残っていない。 ただ必死に命を繋いでいるうちに、いつの間にか来るようになっていた彼女に話しかけられるようになり、それを数度繰り返して今に至る。
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