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構わず空を見続ける私に、彼女は声をかける。 「なんだか今日は、ぼーっとしている日みたいね」 壁に沿って置かれた、二人掛けのソファーの手前に座る彼女に、ポツリポツリと言葉を返す。 『返事』というよりは、『独白』のようなものに近いのかもしれない。 「あの男、話してると疲れる」 「そうなのね。どんなお話をしたの?」 「……」 まず浮かぶのは、あの甘ったるい笑み。 それからゆっくりと記憶からあの男とのやり取りを思い出し、まとまらない思考の中で言葉をまとめる。 「ミーアキャット」 思い出したのは、よりによって数日前のあのやり取りだった。 仕方がない、ここ最近で一番印象に残っていたんだから。 「ミーアキャット?動物の?」 にこりとした笑みを崩さないまま、その人はこんな馬鹿馬鹿しい話を聞いてくれて、少し申し訳ない気もする。 「私のこと、ミーアキャットみたいだって」 「あらまぁ」 「私はあの男を猫みたいだと思う」 そんな、どうでもいい話を、今日もポツリポツリと話した。 終わりの時間が来ると、あの男が部屋をノックする音が響き、彼女が退室する。 「じゃあまた、来週ね」 男の足音と一緒に、その女の人の足音も玄関まで続き、しばらくして彼女が帰った玄関の開閉音が聞こえる。 すると今度はまたこの部屋のドアがノックされ、私はビクリと肩を弾ませた。 このタイミングで部屋に来るのはこの家の主である一人しかいない。 「来んな死ね!!」 容赦なくガチャリと開かれた扉の向こうに向かって、手元にあった枕を投げる。 この際ダメージがないことなんてどうでもいいのだ、なんでも投げてそれをあの男にぶつけられれば。 拒絶が示せるなら、いいのだ。 「酷いなぁ」 顔面に届く前に手で受け止められた枕は、もう片方の手でゆるりと撫でられる。 なぜ、撫でた、それ。 「……キモい」 「そんな心の底から漏れたような声で言わないでよ、傷付くから」 「気持ち悪い」 「余計傷付く言い方に言い直さないで?」 眉を下げて困ったような顔をするけれど、それもすぐ消してゆるりとした笑みを張り付けて部屋に入ってくる。 なぜ来るんだ!?と警戒したけれど、ベッドの上に優しく置かれた枕を見て、小さく息を吐く。 なんだ、枕を置きに来たのか。 「キミさ、酸っぱいもの好き?」 またこの男は唐突に話を持ち出す。 酸っぱいもの……? 今度は何? 「モノによる」 酸味の話をするということは、また食事関係のことだろうか? そんな話されたところで私の味覚なんてたかが知れて―― 「彼女がミックスベリーのジュースを持ってきてくれたんだけど」 「何それ早く言ってよ」 さっきまで起き上がることも億劫だった私が、スムーズに立ち上がって彼を通り過ぎてキッチンへ向かう。 急に起き上がったせいで少しだけくらりと目眩がしたけれど、もう慣れたものだ。 後ろからくすくすと笑う声を聞きながら、自分でもこんなに単純だっただろうかと頬に手を当てて恥ずかしさを噛み殺す。
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