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そのまま首の裏に回っていた手が頭部に上り、いつものように優しくポンポンと撫でる。
なだめるようなそれをされてしまうと、緊張が解けて警戒心がスッと鎮まってしまう。
「まだ何もされてないから今はイタズラしないよ」
「……してるじゃん」
「間接キスとか気にするタイプ?」
「しないし、今更そんなもの……」
そんな……モノ…………。
視線を落とせばそのストローが嫌でも目に入るし、ジュースも少し減っている。
いや、今更だし、気にしないし、そういう甘酸っぱいのは一通りとうの昔に終わってるし……。
「気にしてないけど飲んだのは恨む」
「気にしてない顔じゃないんだけどなぁ」
ぷくっと頬を膨らまし、頭を振って邪念を振り払う。
絶対、この男のペースに流されるもんか。
「ここで間接キスなんて恥ずかしがってくれたらすごくすごく可愛らしいんだけどね」
「恥ずかしがるわけないじゃん、ただ唾液が付いただけでしょ」
「その言い方の方が生々しいなぁ。そうか、恥ずかしがるわけないのか」
「そうだよ残念でしたね」
「じゃあ今ここでも飲めるよね?」
なんて?
「は?」
「あれ、飲めないの?」
「別に、飲める、し……」
コップの底に手を添えた男がそこに力をくわえれば、ぐっとストローと私の唇の距離が縮まる。
え、まって、今?え??
「ほら」
またもや追い詰められた私は、気にしてないと言った手前それを拒否することが出来なくて、ごくりと唾を飲む。
微かに唇を開いてストローを挟み込んで、息詰まるような空気の中でそれを吸い込むと、酸っぱさの中に微かな甘みが口の中に広がり、鼻からベリーの香りが抜けていく。
何これ、美味。
少し粒が入っているようだけれど、このくらいの大きさなら吐き戻しもしないだろう。
一度口を付けてしまえばもう、私のもの。
この酸味も甘さも香りも、すべて私のもの。
まだ男の前だというのに、また口に含んでベリーの味を楽しむ。
久しぶりのベリーの味は、私の物足りない日常にほんの少しの楽しみを与えてくれた。
「ふふっ、夢中になっちゃうくらい気に入ってもらえたようでよかったよ」
男は満足そうにそう言うと、キッチンに背を向けて出ていく。
それに続いて私もキッチンを出てから自室へ入ると、またその味を楽しんだ。
別にストローがなくても飲めるじゃないか、と気付いたのは、部屋で冷静な思考を取り戻した後だった。
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