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――おいしいものも飲めて、少し気分も上がっていた夕方。
そういえばこの家に来てから、私は『殺す』行為以外何もしていなかったな、とふと思い返す。
だるさや不眠、その正反対の殺人衝動などなどに振り回されて、何かをしたくなったり食べたくなったり、そんな考えを起こせるほどの余裕すらなかった時期が続いていたから。
そう気付いたからといって、すぐにやりたいこととか、欲しいものとか、そういう欲望が出てくるわけではないけれど。
「せめて、本読むとか……できるかな?」
ベッドにうつ伏せになった状態で、中高生の頃に自分が好きだったことを思い出す。
別段コレが人より得意、というものはないけれど。
お菓子作りとか、ライトノベルを読んだり、それから……歌とか、オシャレも好きだったな。
思い出し始めれば、自分が好きだったことをポンポンと思い出せる。
中学校では吹奏楽部に入ってトランペットを担当していたし、高校では美術部に入って風景画をたくさん描いていた。
空を見ていた時も、ゆるりゆるりと流されていく雲が美しくて、切り取って額縁に入れて飾りたい、なんて思っていた。
この体力が底に付いているような状態では、実際に音を奏でたり風景を描くことなんてまだできないだろうけれど。
せめてそれに関する本でも読めたら、気持ちがすっきりとしてくるだろうか……?
そう思い立ち私はゆっくりと立ち上がった。
自分からそこへ行こうとするのは、初めてのはずだ。
この家には、彼の部屋が二つある。
一つは寝室、私がいつも寝ている隙をつこうとするが失敗する場所。
そしてもう一つ
――――彼の仕事場(?)がある。
お昼の時間以降、夕方まではその部屋で何かしらの作業をしているようで、前に一度気になって男が外出している時に扉を開けようとしたことがあった。
説明のされなかった部屋だったからそこだけ気になっていたけれど、その時は鍵が閉まっていて開くことが出来なかったのだ。
今なら、外出していないことをこの目で確認しているし、恐らくその部屋にいる。
説明されなかったからといってその部屋にいる彼を呼んだところで、きっと怒られないだろう……たぶん。
だって24時間どの時間であっても殺しに行くことを許可されているんだから。
仕事中だからといってその時間はナシなんてことはないだろう。
そうと決まれば、私は『準備』をする。
先程辱められたお返しにこのストローで目を潰して、倒すのに足を潰したいから、鈍器を……キッチンに何かしら良さそうなのがあるだろう。
脛を全力で殴りつければ普通ならしゃがみ込むだろうから、そこを一刺し……あ、ダメだ、殺したら本が手に入れられなくなる。
今回は痛みつけるだけで留めておいて、交渉しよう。
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