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方向性の決まった私は、ストロー片手にキッチンへと向かった。
目についた鈍器を片手にあの部屋の前へと立つと、ドアの持ち手にゆっくりと力を加えていく――が。
ドアノブが、回らない。
鍵がかかっている。
え、中にいる……はずだよね?
いつもは音を消して寝室に忍び寄ってる癖でノックなんてした事がなかったけれど……少し考え、ノックをしてみる。
数秒の沈黙の後、ドアのすぐ向こう側でドアの開く音がした。
ドアの、すぐ、向こう側で。
え、待って?
この目の前のドアが開いてないのにドアの開閉音がするってどういうこと……?
もう少し待っていると、鍵の開く金属音が鳴り、その扉が開かれる。
そこから現れたのは、もちろんこの家の主だった。
「どうしたの?」
ストローと鈍器……フライパンを持ったまま呆然と目の前の男を見上げる私。
彼の奥には廊下からの光に照らされる鉄製の壁が……いや、これがこの奥にあったドアの正体なのかもしれない。
私の視線の先を追った男が察して廊下側に出てくると、灯るものもなく陰が落ちるその空間がよく見える。
ドアの奥は狭く、人二人分が立てるだけの空間が、そこにあった。
理解が追い付かず呆然と立ち尽くす私に、彼の言葉が落ちてくる。
「何か食べたい?」
「……え?」
「作ろうか?何なら食べられそう?」
彼の視線の先を追うと、私の手に握られているフライパンがそこにはあって……。
……この状態から再度襲う……?
不意打ちというのは叶わなかったけれど。
一応フライパンをかざして、当初の予定とは異なるけれど、その横っ面目掛けてフライパンを振り上げてみるが、当然の如く受け止められてしまう。
「なるほど、この為のフライパンね」
そう納得されても困るのだけど、今の私は頭の中の混乱を抑えるために時間稼ぎが必要だった。
今の一瞬でちょっとどこからつっこめばいいのかわからない。
でも、まずは、まず一番に聞きたいのはそれだった。
「ドアの中にドアって何……?」
「ん?あぁ、これ?」
そのドアを含めた空間をぐるりと見まわす。
ドアの横の壁には暗証番号を入力するようなパネルが付いている。
もしやこれも鍵になっているんだろうか?
家の中の部屋に二重で鍵をかける人、普通いる……?
「こんなことしてまで隠したいモノが……?」
「何を想像したのかはわからないけど、まぁ隠さないといけないものではあるから、否定はしないよ」
「えと、仕事……なの?」
「そうだよ、ちょっと人には見せられない仕事。用があったら今みたいに呼んでくれていいからね」
そう言ってまたふわりとした笑みで、フライパンを受け止めた方と別の手が、ゆるりと頭に乗せられ、撫でる。
最近撫ですぎ……と思うけれど、その手を振り払おうとは思わなかった。
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